クレームを受け入れないひとは進化しない

クレーム

虫が付着しているとクレーム報告を受けときのことだ。自社が納品した商品が顧客の飲食店舗で包装を開封され、しばらくしてたったあとに虫が付着しているのが発見されたとのことであった。

自社工場内では虫を捕獲するためのトラップを設置し、モニタリングを行っていた。その製品を製造した時期の、付着したと思われる製造エリアの虫モニタリングの捕獲状況を見てみると、その種の虫は1匹だけという捕獲結果であった。自社のあるひとは、その虫が1匹しか捕獲されていないのだから、うちで付着したのではなく、顧客のところで付着したのではなんじゃないだろうかと言った。

たしかに、その可能性はある。その捕獲された虫は食品工場にもいるし、飲食店舗にもいる虫だ。自社工場のトラップには1匹しか虫が捕まっていない。自社内で発生したものではないといった方向に、話をもっていきたくなるのが人情だろう。

しかし、と思う。

クレームを出すときの話をしたい。クレームを出す際に気をつけるべき10のことに書いたように、仕入れている原材料に不具合があって、メーカー・仕入れ先にクレームを出すときには、まず自社に入庫したあとに発生したものである可能性がないか考えるべきだと書いた。自社内でなにも問題はなかったと証明できて、入庫する前からこの不具合は発生していたと言うことができる。

一方、クレームを受けたときには、これとは逆の発想を持ちたい。受けたクレームの内容を確認すると、どうも顧客のところで発生した可能性もありそうだと思っても、自社内で発生した可能性を否定できないのであれば、自社内で発生したととらえて、再発防止対策を講じていくべきだろうと思う。

モニタリングトラップに捕獲された虫がゼロなのであれば、「うちで付着した虫ではないかもしれませんね」、「自社の工場で混入した可能性は低い」と言うことができる。しかし、モニタリングトラップに1匹でも捕獲があったときに、「1匹だけしか捕獲されていないから自社の工場で混入した可能性は低い」と言っても説得力がないように思う。

捕獲が1匹あれば、その製造エリアには、その虫が何匹かいて、そのうちの1匹が捕まったと考えるほうが妥当であるし、さらに言いたいことはこの点だ。

「うちで付着した虫ではないかもしれませんね」と言った瞬間に、虫の対策に関して何も実施しなくなる。

この虫は自社で付着したと考えれば、では、社内の虫の生息数を減らす対策として、これをやっていこうと考えるようになるが、これは自社で起きたものではない、自社の問題ではない、と跳ねのけてしまえばことはそれまで。何もしないので、なにも変わらず同じままだ。別に今現状が最高の状態なのであればそれでもよいが、そんな会社は存在しないだろう。

受けたクレームを自らを改善していくことに役立てるのだ。多くのひとがこれができないと思う。批判をされたり、マイナスの評価を受けると躍起になってそれを否定しようとしたり、いっさい聞き入れないようにしたりする。

これは、クレームだけの話ではない。自社、あるいは自分へのあらゆる評価がそうである。自分にプラスになるように受け入れて活用すればよいのだ。

 

輪切りにした果物を砂糖漬けにした原材料を扱うことがあった。とある日、いつものようにその砂糖漬け果物の缶を開けていると、1缶だけ中身の果物がスライスではなく細かく切られていて、さらにグデグデになっていた缶があった。

メーカーの対応者からの話では、メーカー工場内での製造工程には、輪切りにスライスした果物と砂糖などを缶に詰めて封をし、その後加熱殺菌をする工程があるとのことだった。その加熱殺菌工程を始める一番最初にはテストを行うという。それは、輪切りにスライスした果物ではなく、スライスして出てきた切れ端や残がいを缶に入れ行う加熱殺菌のテストだ。テスト後には、その品が正規品に混ざらないように排除しているとのことであった。

このテスト品がそのまま出荷されてしまったのではないかもしれないと対応者は言っていたし、私もそう思った。しかし、最終的にメーカーからもらった報告書にはこう書かれていた。加熱殺菌のテスト缶は、果物の切れ端や残がいといっても、クレーム品のようにグデグデにはなっておらず形が残っているものだ、また、製造記録にはテスト品を排除した記録が残っている。だから原因は不明だ。

この商品は常温保管品であるので、ひょっとしたら、時間がたつと切れ端や残がいが柔らかくなってグデグデになってしまう可能性、あるいは空気が通過するピンホールが開いていて中身が腐敗してしまった可能性がありえるのに、そういったことの検証も行わずに、原因はわからないといった。原因についてをあまり考察していないように思えた。

少し考えただけで自社での発生可能性は低いとクレームを切り捨ててしまうのは非常にもったいないことであると思う。調べてもよくわからないことこそ、しつこく原因・対策を考えていくのがよいのではないだろうか(完全に自社から出荷したあとの問題であればその限りではない)。

これは会社にも個人にも言えることである。私たちは、ほとんどが凡人である。凡人は、自分が改善すべきところを自分で気つくことができないことが多いだろう(非凡なひとに比べれば)。そうであれば、他者からの指摘を十分に咀嚼して活かしてみるほうが、自分にとってプラスになるのではないかと思う。

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