どの食品会社でも、ロス率が多く発生している製品の改善活動を行うだろう。実験的に製造方法を変化させて、製品の品質がよくなるかをどうか見ることがあるかと思う。
オーブンで焼いて作るある製品で、高さが規格範囲よりも低くなっていて、ロス品が多く発生している。これをどうにかするために改善を行うとしよう。
製造方法を変更して規格範囲内に収まる高さがでるように改善を行ったあとには、
・製造方法を変更する前の製品
・製造方法を変更した後の製品
を比較する。その結果、後者のほうが製品の高さが出ており、規格範囲よりも低くロス品となってしまう製品の数が少なくなったことがわかった。この製造方法の変更は効果があったといえるし、今後はこの方法を採用していくべきだ・・・
と、すぐに言えるかというとそうでもない。実はその判断する前に気をつけるべきことがある。それは、製造方法を変更した後の製品の品質が良くなった(高くなった)のは、偶然かもしれないということだ。
ほんとうは、製造方法の違いは、製品の高さに影響を与えていないのに、製造方法を変更した製品がたまたま高い製品になってしまっただけの可能性がある。
それなのに、製造方法を変えたから製品の高さが出たのだ、と間違った判断をしてしまうことは避けなくてはいけない。これを防ぐためには、品質を確認する製品を何個か選びだして測定をする(つまりサンプリング)製品数を十分にとらなくてはならないし、適切なサンプリング方法を選択しなくてはならない。その前に適切な方法で実験しないといけない。また、厳密に判断するには統計学をもちいて計算する必要もあるのだ。
サンプリングについては、この記事を参照してもらいたい。
製造方法を変えて、その効果があったのか、無かったのかを判断するときには、次のようなことに気をつけてほしい。
実験して測定するサンプル数が少なすぎてはいけない
サンプル数が少ないと間違った判断をするかもしれない
1ロットで100個の製品がつくられ、1日に10ロットをつくって合計1000個を製造する製品があるとしよう。これも製品の高さが低くなってしまいロスが出ている。
この製品の改善を行うべく、5個だけ従来とは異なる製造方法を試してみた。この5個の高さの平均値をとってみると、従来の製造方法で作った製品よりも高さが出ていた。
これも良い結果が得られたかというと、そうではない。従来の製品から5個ランダムに選んでも、それらがたまたま高い製品が選ばれてしまうことは普通にあるだろう。逆に低い製品ばかりが選ばれることもある。製品の高さにはバラつきがあるのだから、その中から選んだ5個の製品が高いものばかりなるのはよくあることだろう。
サンプル数が5個だけの結果を見ても、良くなったとか悪くなったとか確信をもって言うことができない。この実験結果で物事を判断しようとすると、間違った判断をする可能性が高い。
また、1ロット分1000個の製造方法を変えてみても、その中から5個しか高さを測定しなかったら同じこと。1000個すべての高さを測る必要はないが、ランダムに製品を選んで、それなりの数を測定する必要がある。
サンプル数をどう決めるか
では、どの程度測定すればいいのか。
どのくらいのサンプル数をとればいいのかは、統計学的な計算を活用する。
高さの平均値を知りたいのであれば、1000個すべてを測定するのが正しい答えになるだろう。これを真値という。真値を知るためには1000個すべてを測定するしかないのだが、1000個も測定していると時間がかかりすぎてしまうし、真値にほぼ近い平均値を知るだけであれば、1000個すべてを測定する必要はない。
仮に1000個をすべて測定し平均値をだすと5.0cmのサイズであるとして、ランダムに200個だけ測定して出した平均値が5.1cmだったとしよう。1000個の平均値と200個の平均値には、0.1cmの誤差がある。これは無視できる差だろうか、できない差だろうか。
0.1cmの誤差も許さないくらいの精度がほしいのであれば、もっとたくさんの製品を測定するしかない。だが、0.1cm程度の誤差であれば、そんなの別にいいよと思うのであれば、200個だけ測定をすれば済む話なのであるし、1000個測定するのは時間のムダともいえるのだ。
何個のサンプルをとればいいのかを考えるときには、まず真値からの誤差をどの程度に抑えたいのか、どの程度であれば許容できるのかを決める。だいたい高さ5cmほどになる製品を測定するとして、誤差が0.1cm以内であれば問題ないと考えたとしよう。
次の式をつかって、何個を測定すればよいか割り出すことができる。
2×(標準偏差 ÷ √サンプル数)
記号で示すと、
2×(σ/√n)
σは標準偏差で、nはサンプル数だ。誤差は、この範囲にだいたい収まるようになる。計算式から読み取れるのは、サンプル数nが4倍になれば、誤差範囲は2分の1になり、サンプル数が16倍になれば、誤差は荷は4分の1になる。
標準偏差はその時点でわかっている情報をいれればよい。製造工程を変更させた後の製品を測定するのであれば、変更前の標準偏差とさほど違いはないだろうからそれを使えばよい。
高さ5cm程度の食品なので、高さの標準偏差は0.2とか0.3くらいだろう。0.2になるとする。
2×(0.2/√n)
が真値からの誤差範囲となるので、仮に100個を測定したら、
2×(0.2/√100)
2×(0.2/10)
=0.04cm
±0.04cm以内にほぼ収まる。
(0.2/√100)は、サンプル100個の平均値の標準偏差である。100個測定して平均値を出す、100個測定して平均値を出す、・・・この作業を何度も繰り返していくと、サンプル100個の平均値の分布ができてくる。その分布の標準偏差が(0.2/√100)である。(これを標準誤差という)
2×(0.2/√100)として、2を掛けているのは、標準誤差2つ分ということだ。
確率的には、100回このサンプリングをしたら、95回は100個の平均値が5cm±0.04cm以内に収まることを示している。100回のうち5回は、5cm±0.04cmから外れることになる。ただし外れるとは言っても、0.1cm、0.2cmと外れてしまうことは、まずないだろう(確率論でいえば、ほんとうにわずかな可能性ではありえる)。
この誤差を許容できるのであれば、100個のサンプルをとるだけで十分だろう。1000個も測定をする必要がない。
でも、5個しか測定しないとなると、
2×(0.2/√n)
2×(0.2/√5)
=0.178
≒0.2
誤差がほぼ収まる範囲が5cm±0.2cmまで広がる。0.1cm程度の誤差はよく発生することになる。
このあたりのことを知るには、統計学を学ばないといけない。また別の記事でも書いていきたいと思うが、ここでは統計学入門として私がよいと感じた本を紹介したい。統計学を学ぶためになにか良い本はないか考えている方に参考にしていただければ幸いだ。
変更した箇所以外の要因の影響を排除していない
適切な実験ができていないこととして挙げたいのは、変更した箇所以外の要因を考えていない実験だ。それが実験結果に影響を与えていることがある。
製造方法を変更する実験で、食品の配合を変更し、元の配合と、変更した配合の違いが、高さに影響を与えるかどうかを確認したとしよう。このときに、配合の変更以外の要因が、製品の高さに影響を与えていないかどうか、注意しなくてはならない。
配合を変更した製品のほうが高さが出てよい結果が得られたのに、じつは、配合の影響はなく、ほかの影響しているものがあったからだとしたらどうだろう。「配合を変えたから製品の品質が良くなった」と思うのは勘違いである。
たとえば、この製品がオーブンで加熱をするものであったとしよう。もともとの配合のものをオーブンで焼き、次に配合変更したものを順番に入れていくとしよう。オーブンの設定温度は同じでも時間経過して多少の温度上昇・下降があったりすると、 先に焼くか、後に入れて焼くかで、焼成後の完成品に影響が出てきてしまう。
つまり、配合変更以外にも、オーブンに入れる順番の違い(加熱の違い)が、高さに影響を与える可能性があるかもしれないのだ。
これらの要因が製品の高さには影響を与えないといえるのであればよいのだが、与えるかもしれない場合は、工夫をする必要がある。
先にもともとの配合のものをオーブンに入れる、そのあとに配合変更したものをオーブンに入れるのではなく、準段をランダムかランダムに近くしてできないか考える。ランダムとは無作為であり、厳密にやるのであれば、乱数表をつかったり、サイコロをつかって本当にでたらめに順番を決めたりしないといけなくて面倒なので、ランダムに近ければいいだろう。
元の配合のものと、配合変更したものを、1個づつ交互につくってオーブンに入れたり、あるいは5個づつでもよい。そうしてできあがった製品を元配合と変更後の配合のものに分けて、高さを測定して平均値をみればよい。
元配合の製品には、順番が早く焼かれたものあるし、遅く焼かれたものもある。変更後の配合の製品も同じく、順番が早く焼かれたものあるし、遅く焼かれたものもある。
これであれば、仕掛品の置き時間、オーブンに入れる順番の要因は、この平均値に影響がないだろう。
測定誤差がある
実験の結果をみるには、なにかしらの測定をする。この測定が狂るっていると、おのずと得られる実験結果も間違ったものになり、正しい判断ができなくなる。
測定誤差は、測定機器の調子が悪い、作業者の技術がないといったことで発生してしまう。測定誤差にも十分気をつけることだ。
実験の効果はないのに、効果があると間違った判断をしてしまうことを防ぐには、適切な方法で実験を行い、サンプル数を必要分とること、正しく測定して結果を見ることだ。
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