食品製造に関するデータを集めて分析する際には、平均値を出すことが多い。データを分析するときには、必ずといっていいほど平均値を出すものだ。
平均といっても、いくつかの種類がある。すべてのデータの値を足して、データ数で割って出すものが算術平均で、私たちがもっともよく使うものであるし、ふつう平均というとコレになる。
しかし算術平均だと、間違った値、間違った理解になってしまうことがある。そのときには、ほかの種類の平均値を使うことになる。
算術平均以外でよく使われる平均として、「加重平均」を紹介したい。
工場の歩留まりの平均を考えてみよう
歩留まりとは
食品工場の生産性に関する指標として、「歩留まり」と呼ばれる指標がある。原材料の投入量から算出した理論生産数に対する、実際の生産数の割合のことだ。
製品をつくる工程では、使用した原材料が一切ムダにされず、その100%が最終製品に姿を変えることはまずない。
この記事を書いているときにパンが近くに見えたので、パンのことを例とすると、パンをこねる機械や生地を分割する機械には、若干の生地がこびりつくだろうし、成型した生地を作業者が誤って落とすこともあるかもしれない。梱包、出荷される前の検品工程で、見た目が不格好な形になっている製品は、不調品として除去される。
仮に歩留まり率100%であれば、投入した原材料が一切のムダなく活用され製品になったことになるのだが、そのようなことはまずありえない。
とはいえ、歩留まり率を向上させることは、その分が利益につながるので、どのメーカーでも懸命に取り組むべき課題となる。
歩留まり率の加重平均を考える
さて、とある食品工場をのぞいてみよう。この工場では毎日毎日、歩留まり率の数値を算出してチェックしている。
原材料から割り出した理論生産数に、製品として出荷できる良品が占める割合が、歩留まり率だ。
そのデータを1週間並べてみるとこのようになった。日によって製造数が変わっている。
製造数 | 良品(個) | 製品化率 | ロス率 | |
1日目 | 16,000 | 11,200 | 70% | 30% |
2日目 | 12,000 | 10,800 | 90% | 10% |
3日目 | 8,000 | 7,600 | 95% | 5% |
4日目 | 14,000 | 11,900 | 85% | 15% |
5日目 | 10,000 | 9,000 | 90% | 10% |
では、この期間の平均歩留まり率を計算してみよう。私たちが一般的によく使用する平均、つまり算術平均での計算は、1日目から5日目までの歩留まり率70%+90%+95%+85%+90%を足し合わせて5で割ると、86%になる。
だが、この場合は間違った理解につながる。なぜなら、それぞれの日の生産数には差があり、それぞれの重みが異なることを加味していないからだ。1日目は歩留まり率が低く、そして生産数は一番多いのだから、平均を引き下げる力が強く働きそうだ。
一方で、3日目は歩留まり率が高いが、製造数は一番少ないのだから、ほかの日と比べると、平均を引き上げる力は弱そうである。しかし算術平均の計算だと、ただこの5日のそれぞれの%を足して割るだけなのだから、生産数16,000個の1日目も、生産数8,000個の3日目も、同レベルに扱われてしまうのだ。
1日目は生産数が多いのだから、重きをおいて影響が大きくなるように、3日目は生産数が少ないのだから、影響が小さくなるように平均値を計算すべきである。
こういったときに使えるのが「加重平均」であり、正しい平均の数値を表すことができるのだ。
まず、わかりやすく1日目と2日目だけの歩留まりで考えてみよう。
1日目70%(生産数は16,000個)
2日目90%(生産数は12,000個)
算術平均を計算すると、
(70+90)/2 = 80%
となるが、これは上に書いたように正しい平均をあらわさない。
なぜかというと、1日目の16,000個の製造数に対して、2日目は4,000個も少ない12,000個の製造数であり、1日目の方が重みがあるはずのに、単純に足して2で割るのでは、それが反映されないからだ。
1日目の70%のほうが生産数が多くて重みがあるのだから、1日目と2日目の歩留まり率の加重平均は、70%側に引っ張られて、80%より低くなるはずだ。
実際に加重平均を計算してみると、数値は78.57%となる。1日目の70%の方が重みがあるため、80%よりも70%側に引っ張られたことになる。
では、この加重平均はどのように計算するのか??
加重平均の計算方法
加重平均の計算方法には、下記の2つがある。
①5日の各データに重み付けをし、足し合わせる計算方法
②%の数値は使用せず、5日分の合計生産数と合計良品数をつかった計算方法
である。
各データに重み付けをして足し合わせる
それぞれの日の重みはどのくらいになるか考えてみよう。5日間の生産数の合計が60,000個だ。このうちどれだけを製造したかが各日付の重みになる。
1日目の重み 16,000 / 60,000=0.26667
2日目の重み 12,000 / 60,000=0.20000
3日目の重み 8,000 / 60,000=0.13333
4日目の重み 14,000 / 60,000=0.23333
5日目の重み 10,000 / 60,000=0.16667
これが各日付の重みとなる。合計すると1になる。この重みをそれぞれの日の歩留まり率と掛け合わせる。
1日目 歩留まり90% × 重み0.2667=18.666%
2日目 95% × 0.2000=18.000%
3日目 80% × 0.1333=12.666%
4日目 85% × 0.2333=19.833%
5日目 90% × 0.1667=13.333%
これらの数値を足し合わせたものが加重平均だ。84.17%になる。
5日分の合計生産数と合計良品数から計算をする
各日の%は無視して、5日分の合計生産数と合計良品数から計算をする。
5日間の生産数が60,000個、良品数が50,500個なので、
50,500÷60,000=0.84.17
84.17%となる。ひとつ上に書いた「各データに重み付けをして足し合わせる計算方法」で出た値と一致した。
私たちが一般的に使う算術平均の計算ではどうなるか。1日目から5日目までの歩留まり率を足し合わせてデータ数の5で割るので、このようになる。
(70%+90%+95%+85%+90%)/ 5=86%
算術平均は86%になる。加重平均の84.17%とは異なる値だ。%の合計など、各データに重みづけをしたほうがより現実を的確にあらわせる場合、加重平均を使うようにしよう。
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