食品のリコール情報を見ていると、一括表示へのアレルギー物質の欠落が原因の商品回収を多く見かける。アレルギー物質の表示の欠落に気がついたとき、アレルギーを持った消費者がその食品を食べてしまう可能性を考えると、回収をするのは当然の判断だ。
一括表示を作成する時には、アレルギー物質の表記ミスに対する注意、防止の仕組みが必要であるはずで、どの会社でもチェック体制を構築するなど対応していると思うのだが、アレルギー物質の表示が欠落してしまうのはなぜだろうか。そして表記ミスを防止するための有効な手立てはないのだろうか。
一括表示の作成手順を追いながら考えてみたい。
一括表示の作成手順
中小企業に関しては、エクセルで製品の配合や一括表示の原材料名の表記順をまとめていることが多いと思う。
- 原材料の規格書から情報を得る
- 自社製品の配合を表にまとめる
- 原材料名の表示順をまとめる
- 一括表示の記載内容をまとめる
- 一括表示を作成する
といった作成手順となる。
原因の分類と対策
上記した工程に沿ってアレルギー物質表示漏れの原因をみていくと、おもに次のようになるだろう。
原材料情報から転記されなかった
原材料の規格書を見て、自社の配合表へと転記してまとめていくが、この転記をする際にアレルギー物質を転記していなかったことが原因としてあるだろう。
※会社によっては「原材料規格書」ではなく「原材料仕様書」などほかの呼び名があるだろうが、「原材料規格書」と呼ばせていただく。
原材料に含まれているアレルギー物質は原材料規格書に記載されている。これを見逃して転記しそびれてしまう。
たとえば、原材料の一次原料に乳製品が使われていれば、乳成分が含まれているのだなとわかる。しかし、原材料の一次原料に乳製品はないのに、乳成分がアレルギー物質として含まれているような場合もある。原材料の配合だけを見てアレルギーの有無を、思うとか意識するとかで
原材料につかった醤油に含まれるアレルギー物質の小麦を表示していなかった、というミスはしばしば見かける。
また、同じ種類の食材ではあるが異なるものに使用原材料を変更するときに間違いを起こしてしまうことがありそうだ。もともと使用していた原材料には含まれていなかったアレルギー物質が、新しい原材料に含まれている場合があると、同じ種類の食材だからといって、アレルギー物質に違いはないだろうと油断してしまうかもしれない。
これも醤油に関するものだが、ある米菓のアレルギー物質の表示欠落の事例をあげたい。原材料として使っていた醤油を、ほかの種類のものに切り替えた。従来の醤油の起源原料には小麦が含まれていなかったのだが、新しく変更した醤油には小麦が含まれていたのであった。同じ醤油だからと考えてか、最終製品の米菓のアレルギー物質の表記は見直されることなく、そのまま商品が販売されてしまった。
ふつうこういうときは、元の配合をコピーして作成し始めるだろう。醤油のところだけ修正をし、アレルギー物質はそのまま見過ごしてしまい、一括表示ラベル自体は基本的に表示は変わらないだろうから、そのまま使ってしまったのだろう。
自社の配合表から転記されなかった
自社製品の配合表をまとめたら、次はどのような一括表示内容、および原材料名の順序をまとめる。原材料規格書から配合表へのアレルゲンを転記はおこなったのだが、一括表示の原材料名の順序をまとめるときにアレルギー物質を記載し忘れてしまった、といったミスが起こりうるだろう。
手作業で書き写すか、コンピューターをつかって自動で書き写しされるようにしてあるかあるかと思うが、どちらにしても機能していないことになる。
代替え表記によるミス
一括表示内の原材料名にアレルギー物質を含む特定原材料名が表示されていないけれども、アレルギー物質が含まれている場合がある。原材料名に「卵」と書かれているのであれば、卵アレルギーがあることはわかるが、卵を含んだ香料があって「香料」とだけ書かれていても卵アレルギーがあることはわからない。
それがわかるようにするため、一括表示内の原材料名には次のような表示をしなくてはならない。
- アレルギー物質を含む原材料のすぐ後ろに「○○○(小麦を含む)」と表記する
- 最後に「・・・(原材料の一部に小麦、卵を含む)」と表記をする
原材料の名前を見ればアレルギー物質が含まれているとわかる場合には、表示スペースを有効に使うために省略してもよいとされている。代替表記と特定加工食品という2つの代替の表記が認められているのだ。
この代替えの表記を活用することによって、表記ミスが発生してしまうことがあるのではないかと考えている。
代替表記
アレルギー物質と同一であると理解できる表記であれば、上記2つのアレルギー表記を省略できる。たとえば、「こむぎ」「コムギ」と表記していれば、小麦アレルギー物質があることはわかるので、表示する必要はない。また、乳アレルギー物質があることは「チーズ」「脱脂粉乳」と表記されていても理解できるので、「(原材料の一部に乳を含む)」といった表示をすする必要がないというのが、代替表記だ。
特定加工食品
特定加工食品とは、
- 特定原材料名、代替表記を含んでいるので、これらを用いたものだと理解できる表記
- 特定原材料名、代替表記を含んでいないが、これらを用いていると予測できる表記
である。これらの表示があれば、アレルギー物質の特定原材料名そのものは、表示しなくてよいとされてきていた。
されてきていたと書いたのは、2015年4月1日に施行された食品表示法では、この特定加工食品のアレルギー表示が廃止されたからだ。だが施行されたとはいっても、急には対応ができないので移行の猶予期間が設けられており、2020年3月末までに食品表示法に適合した表示を実施すればよいとされている。2016年11月現在は、旧ルール、新ルールどちらの表示方法でをしてもよいとされている。
特定加工食品は使わない?
アレルギー物質の非表示を防ぐために、特定加工食品が廃止された新食品表示法に沿って作成をしてしまったほうが、よいかもしれないと考えている。
特定加工食品として、アレルギー物質の表示はしないでもよいかどうかを調べたり考えたりするよりも、とにかく食品に含まれているアレルギーは抜き出して書いてしまった方が、記載漏れが無くなるのではないだろうか。
すこし違う話であるが、卵の表示が漏れていた例をあげる。
あるスーパーマーケットの「いなり」と「巻き寿司」のセット商品いわゆる助六で、卵のアレルギー物質の表示が欠落していたので回収したという情報を見た。太巻きに使われている卵の表示がなかったようだ。
食品スーパーに行ったときに、助六寿司の表示を見てみるとこのようになっていた。
原材料名 いなり寿司、太巻き、・・・そのほか添加物など(原材料の一部に卵を含む)
太巻きの材料は、厚焼玉子、かんぴょう、きゅうりなどだ。これらが省略されているので最後に卵アレルギーの表示がされていた。
卵アレルギーの表示を欠落してしまったスーパーは、太巻きの材料である厚焼玉子、かんぴょう、きゅうりなどの表示を省略して、“厚焼玉子”の表示がないのに、卵アレルギーの表示もしなかったということだ。
厚焼玉子があるから、卵の表示はなくていいなど、代替えの表示になるので表示しなくていいとかどうを考えたりする部分がややこしいのである。それによって表示欠落することがあるのではないだろうか。
新表示基準のように原材料名の最後に「(一部に卵、小麦を含む)」といった表示を必ずするようにしたら、アレルギー物質を洗い出してすべてを書くことになるので、よいのではないかと思う。
一括表示作成時に印字しなかった
一括表示を包装資材に印字するか、あるいはラベルを使用するにしても、
もとの資料にはアレルギー物質が漏れなく書かれていたのに、作成するときに抜け落ちてしまうことも考えられる。しかし、もとの資料とすり合わせてチェックも行うので、この点での間違いは少ないように思う。
急いでいるなど他の理由で
ある新商品の一括表示にアレルギー「乳」の表示をすべきところを、し忘れてしまう失敗をしたことがある。
その新商品の製造・販売が決まったときに、販売時期まで時間が無いため即座に製造を開始することになり、かなり急な作業で表示作成を行うことになった。商談で採用が決まってから販売までの時間が無かったのか、採用決定から販売開始までの時間はあったが、自社内での連携が悪くて品質管理が表示作成する時間はまともに無かったのかどちらかなのは忘れてしまったが、とにかく時間が無かった。今日、今すぐ作れ、というくらいであったと記憶している。
新製品の一次原料に乳製品を使用していなかったが、原材料の二次原料として、乳成分が含まれていた。
作成するひとと、チェックするひとがわかれていたのだが、突貫工事での表示作成のため、チェックもじっくり行わず、アレルギー物質の表示が漏れてしまったのだ。そのまま気がつかずに商品を製造し、その表示も使用したのであった。
後になって、一括表示にアレルギー物質が抜けていることに気がつき、顔面蒼白となった。周りの方々に頭を下げ、倉庫にいた方々総出で表示シールを貼りなおしてもらった。
作成の手順は、
- 原材料の規格書から情報を得る
- 自社製品の配合を表にまとめる
- 原材料名の表示順をまとめる
- 一括表示の記載内容をまとめる
- 一括表示を作成する
と書いた。各作業工程でアレルギー物質が漏れてしまう穴がある。間違えやすい箇所を意識しながら作成し、チェックを適切に設けていくことで、アレルギー物質の表示欠落を防いでいく。
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